相続が発生した後、遺産である不動産名義の書き換えや預貯金口座の解約、生前の債務の支払いなど、なすべきことは多いです。遺言書がある場合には、その遺言内容に従った相続手続きを行うのは、基本的には相続人の皆様となります。しかしながら、遺言執行者が選ばれていますと、その遺言執行者が相続人に代わって各相続手続きを行うことができます。
遺言執行者の選任とその業務範囲は、遺言者があらかじめ遺言書の中で指定しておきます。もしその指定がなく、相続人が遺言執行者を就けたいと考える場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任申し立てを行います。相続人が任意に遺言執行者を選任して各手続きを任せることは、現行制度上認められておりません。
遺言執行者の選任指定を受けた者は、就任を承諾することもできますし、拒否することもできます。特に遺言で遺言執行者になるよう指定されていて、その就職を拒否しようとする場合、相続人らの求めに対して遅滞なく拒否する旨を伝えなければならず、無視して放っておくと、遺言執行者への就任を承諾したものとみなされることになります。
遺言執行者は、遺言書に定められた範囲で、相続人の代理人としての立場で事務を行うことになりますが、必ずしも相続人の利益のためではなく、あくまで「遺言の内容を実現するために」活動します。遺言の内容によっては相続人の意向に沿わないものもありますが、それでも遺言執行者はその遺言内容に従った事務を粛々と遂行します。
遺言執行者に就任しますと、まずは相続人に自己が遺言執行者である旨、そして遺言の内容を通知します。遺言執行者がいない場合には相続人自ら遺言執行しなければならないので、遺言内容、そして誰が遺言執行者であるのかについて、相続人は利害関係を有しているため、遺言内容まで通知します。そのうえで、遺言執行者は相続財産を調査し、財産目録を作成して相続人に交付しなければならない、とされています。相続人に秘密裏に遺言執行することは、制度上予定されていません。相続人にオープンな状態で遺言執行事務を行っていきます。
必ずしも相続人にとって望ましい遺言執行ではない、ということもあります。しかし、だからと言って相続人が勝手に遺言内容に反した売却等処分をした場合、その売却等処分行為は無効とされてしまいます。相続人であっても遺言執行者の仕事を妨げてはならないとされています。ただし、買主等の第三者からすればそのような事情は外からうかがい知ることはできませんので、遺言執行者の存在などの事情を知らない買主等第三者は、有効に買い受けて権利を取得できるとされ、一定の取引の安全が図られています。反対に、事情を知っている第三者は保護されず、やはり相続人との間の行為は無効となります。
遺言の内容によっては、遺言執行者の仕事は膨大なものとなります。遺言執行に弁護士や司法書士などの士業の方を指定するケースは多いですが、相続人やご友人のどなたかが遺言執行者となることも可能です。もし、ご自身が遺言執行者に指定され、就任したいが大変そうだ、と思われる場合には、弁護士や司法書士、税理士などに事務の一部を委任してみることもご検討ください。遺言執行者には自己の事務の一部を他人に委任できる、「復任権」という権利が認められています。遺言執行についてどうしたら良いか、誰か手伝ってくれる人はいないか、悩まれているのであれば、是非、お近くの法律事務所にご相談してみて下さい。
徳丸修一