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2021.08.06 

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相続人等に対する株式の売渡し請求

 相続財産の中に株式がある場合、株式も他の財産と同様相続の対象になりますので、特に遺言がない場合、法律の定めに従い、株式は配偶者や子あるいは兄弟姉妹などの法定相続人に引き継がれていきます。複数の相続人がいる場合、株式は各相続人の持分割合に応じて共有の状態になります。
 ご家族で会社を経営されている場合などは、ご家族の中で株式が移転し、実質的に会社経営への影響は比較的小さいと考えられますが、経営に携わっていない方が相続人である場合は事情が異なります。株式は原則として配当を受ける権利のみならず、株式会社における最高の意思決定機関である株主総会にて議決権を行使できる権利も含むので、徒に会社の重要な意思決定が進められないおそれを心配しなければなりません。
 そこで、そのような弊害への一対応策として、会社法は、会社自身によって自社の相続株式を会社に売渡すよう請求できる権利を認めました。「相続人等に対する売渡しの請求」と言います(会社法第174条以下)。任意の株式売買契約とは異なり、会社が主導権をもって株式売買を成立させることができます。
 この売渡し請求が認められるためには、以下の一定要件を満たす必要があります。
1.(定款に売渡し請求できる旨の規定があること)
 各株主への予見可能性を担保するため、相続が発生する前に、会社の定款に、相続が発生した場合、会社自身が相続人らに売渡し請求できる旨があることを要します。もし、規定がなければ、相続発生前に、株主総会決議により定款を変更し、規定を追加しておく必要があります。
2.(非公開会社であること)
 株式が第三者へ自由に転々流通することが予定されておらず、株式譲渡につき会社の承諾を要する会社であることが必要です。定款や法務局で取得できる会社謄本に記載があるかどうかで確認できます。
3.(株主総会決議により承認を得ていること)
 具体的に特定の相続人に売渡し請求を行う場合、その都度、株主総会決議による承認を得る必要があります。なお、株式を相続した相続人も株主の一人ですが、会社から売渡し請求を受ける予定の株式相続人は、当該株主総会にて議決権を行使できません。
4.(会社が相続等の事実を知った日から1年内の請求であること)
 売渡し請求には一定の期間制限があります。相続開始の日からではなく、会社が相続発生の事実を知った日から1年内に売渡し請求を行う必要があります。

 株式の売買代金額は、基本的に会社と請求を受けた株式相続人との協議、話し合いにより定まります。協議が整わない場合には裁判所に価格決定の申立を行って代金額を決定してもらいますが、申立ては売渡し請求があった日から20日以内に行う必要があります。期間を過ぎますと、売渡し請求そのものが効力を失ってしまいます。

 この売渡し請求の制度は、会社株式が予期しない形で拡散することを防止し、安定した経営を支えるものとして、半ば強制的に株式売買契約を成立させる有用な制度と言えます。ただ、期間制限があること、裁判所を利用する場合のコストなどの面も考慮しなければならないことに注意を要します。
                                 徳丸修一
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