人が死亡すると、その配偶者や子などの法定相続人がいる限り、相続が発生します。死亡の事実は各市区町村役場に届出ることにより戸籍に記載されます。相続の発生時点は死亡時であって、戸籍記載の届出をしたときではありません。従いまして、仮に戸籍上死亡の事実が記載されていなくとも死亡により当然に相続は発生しています。ただ、その後の各相続手続きを進めようとする場合、死亡の事実の記載された戸籍等が必要になってきますので、きちんと届出ておく必要があります。
死亡届は、同居人や親族、家主さんなどが死亡の事実を知って7日以内に死亡地の市区町村役場に行いますが、実際には、ご遺体が見つかっていない、あるいはそもそも死亡しているかどうかも判明していない場合ということも、あり得るところです。民法や戸籍法においては、そのような場合に死亡したものと同視し、相続が発生することを認めている場合もあります。
1.(認定死亡)
例えば、水難事故や火災等によりご遺体が発見されなくとも死亡したことが確実と認められるような場合、警察などの取調官公署が市区町村長へ死亡報告を行うことが出来ます。このことを一般に「認定死亡」と言い、その死亡報告が戸籍に記載されると、反証のない限り、戸籍に記載された死亡日に死亡したと扱われます。この認定死亡による場合には、その旨の記載ある戸籍を利用することによって、相続手続きを進めることができます。
1.(失踪宣告)
また、所在不明の者の生死が7年間明らかでない場合、家庭裁判所は、父母、配偶者、相続人などの利害関係人(債権者を除く。)による申立てにより、失踪宣告をすることができます。この失踪宣告が確定すると7年の失踪期間が満了した時に死亡したものとみなされます。もっとも、失踪宣告の申立人は失踪宣告の審判確定の日から10日以内に市区町村に失踪宣告審判書謄本および審判の確定証明を提出し、失踪宣告により死亡したとみなされた旨の戸籍の記載を書き換えてもらう手続きをする必要があります。このような失踪宣告の手続きを一般に「普通失踪」と言います。失踪宣告により死亡した旨の戸籍への書き換えが完了しますと、その戸籍謄本を利用して各相続手続きをすることが可能となります。
失踪宣告には、上記「普通失踪」の他に「危難失踪」というものがあります。これは、戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中にあった者、その他例えば大規模な災害に巻き込まれてしまった者の生死が、それぞれ戦争や沈没後、災害が収まるなどの危難が去った後1年間明らかでない場合、普通失踪の場合と同様、利害関係人の申立により家庭裁判所失踪宣告をすることができます。この「危難失踪」の場合も、その旨を市区町村長へ届出ることで戸籍に死亡したとみなされた旨が記載され、相続手続きを行うことが可能となります。死亡したものとみなされるのは、危難が去った時となります。
1.(高齢者消除)
以上の認定死亡や失踪宣告による場合、死亡と同視され相続手続きが進められることとなりますが、似て非なるものとして、いわゆる「高齢者消除」というものがあります。これは、戸籍に記載された100歳以上の高齢者が、長年月にわたり所在が不明で生死不明な状態が続き、実際には死亡している可能性が極めて高い場合、戸籍を整理する目的でその高齢者の戸籍上の記載を消除する行政措置のことを言います。放置された戸籍を整理するための制度ですので、消除された高齢者について死亡とみなすような記載はなされず、相続が発生するものではありません。戸籍上は「死亡日」ではなく「除籍日」が記載されます。つまり高齢者消除により除籍された記載をもって各相続手続きを行うことはできず、例えば、失踪宣告の手続き、あるいは具体的状況により不在者財産管理人の選任申立てなどを行うかどうかの検討が必要になります。
相続手続きを行うためには、被相続人の死亡の事実および死亡の時点(日)を証明しなければなりません。場合によっては死亡とみなされるために特別な手続きを行う必要があるので、注意が必要です。 徳丸修一