京都の相続の専門家が相続・遺言・家族信託を総合的にサポート

ブログ

2021.09.26 

ブログ

元本の確定

 事業をされていた方などによくあるのですが、金融機関から融資を受け、所有する不動産に根抵当権を設定していることがあります。ところが、その後事業主さまが亡くなってしまい、相続が発生した場合、根抵当権はどうなってしまうのでしょうか。
 根抵当権の債務者に相続が発生した場合、それまで担保されていた債務は相続されることとなり、原則として、相続された既存の債務以上の債務は担保されなくなります。このことは、担保されるべき元本が確定していることを意味しています。この元本確定により、その根抵当権者である金融機関などとの継続的な融資関係は、事実上終結を迎えることとなります。もっとも、根抵当権自体が当然に消滅するものではなく、既存の債務を担保したままの状態が続きますので、元本の確定した根抵当権登記を消滅させるには、別途根抵当権者による放棄の意思表示、およびそれに基づく根抵当権の抹消登記申請が必要になります。
 根抵当権の元本確定は、相続発生により直ちに生じるものではありません。人の死亡という偶発的な事情によりこれまで利用していた根抵当権が急に利用できなくなっては事業を引き継ごうとする相続人ら、そして事業活動を支援してきた根抵当権者に不便を強いてしまいます。そこで、根抵当権の元本確定には一定の猶予期間が設けられています。すなわち、債務者に相続が発生した場合、6か月以内に根抵当権者とその設定者(不動産の所有者)との間で、相続人の中から次の債務者となるべき者を指定する契約を結び、更に次の債務者となる者を登記した場合、当該根抵当権の元本は確定しないこととしました。もし、相続発生後、6か月以内に指定債務者合意の登記を行わなければ、相続発生時に元本は確定したものとみなされることになります。他方、事業を継続するために指定債務者の合意の登記まで行った場合、亡くなった債務者の相続債務の他、相続発生後に新たに事業を引き継いで指定債務者となった相続人の、新たに発生した債務が根抵当権で担保されることとなります。ただし、あらゆる種類の債務が担保されているものではなく、例えば銀行取引や信用金庫取引など、根抵当権設定契約であらかじめ定められた債権の範囲内にある債務が担保される対象となります。

 これまで根抵当権を設定し事業を行ってきた方に相続が発生し、相続人が事業を引き継ぐのであれば指定債務者を登記するという新たな手続きが必要になります。他方、事業を継続せず、金融機関などの根抵当権者との融資関係を終了させるということであれば、相続発生から6か月の自然経過によって元本を自動的に確定させることとなります。こうなりますと既発生の相続債務のみを担保する根抵当権が残ることになります。元本確定後の根抵当権は抵当権と基本的に同様と考えてよく、相続人らによる残債務の返済が完了すれば根抵当権の抹消登記を行いますし、もし残債務の返済が滞ることになりますと、例えば不動産の競売手続きなどを通じて債権回収が図られることとなります。  徳丸修一
SHARE
シェアする
[addtoany]