昨今の社会経済情勢の大きな変化の中で、文書のデジタル化、印鑑使用の見直しが各方面で行われています。この流れは今後とも変わらないと思われます。では、遺言書の作成はどうでしょうか。
遺言書の作成方法は大きく自身で作成する自筆証書遺言と、公証人の先生に作成してもらう公正証書遺言があります。自筆証書遺言書は、遺言を希望される方が自身で作成する遺言書ですが、令和3年の現在、オンライン上で、あるいはオフライン上で遺言書を残しておくことまでは認められていません。民法という法律によりますと、作成方法には一定のルールがあり、文書や日付、氏名を自署し、押印することが求められます。この点は今現在変更ありません。
「私は、私の一切の財産を子○○に相続させる。」などの遺言文は自署、つまり自分で書くことが求められます。ワードやエクセル、その他ワープロ機能を利用したデジタル文書は「遺言書」とは認められないこととなります。また、紙に自署を要するということは、他の者に代筆してもらうことはできず、ご自身で書く必要があることも意味しています。先のデジタル文書だと、それのみでは本人が作成したものか判別できず、多少の書き癖など個性が出る自署の方が本人性を事後に検証し易いということもあるだろうな、と思います。
もっとも、すべてを書く作業が必要となるものではなく、不動産の記載を法務局発行の不動産登記簿謄本としたり、金融機関等の預貯金通帳のコピーを自署に代えるなど、一部書かなくとも良い部分もあります。
また、自署された遺言書には、押印が必要になります。押印は実印でも認印でも有効ですし、指印でも有効です。遺言書自体が紙媒体を前提としていますので、電子署名をここにいう押印とすることは難しいのだろうと考えられます。ただ、一つの考え方として、pdfファイル化されたデジタル遺言書に、押印に代わる電子署名、例えばマイナンバーカードをカードリーダーで読み込んで電子署名を施し、これを押印とする扱いもそれ程無茶な話ではないのかな、と個人的に思いますが、現在のところはこのような作成方法は認められていません。
以上に述べましたものは、相続が発生したときに、各相続手続きで直接利用するために有効な遺言書作成の話でした。後世にメッセージを残すためにデジタル文書を利用する場面は多々あると思いますし、今後も増えてくるだろうと推測しています。これらは相続手続きに利用はできなくとも、メッセージを残した方の意思を推認させる一定の証拠価値を有する文書と考えられますので、全く不必要なものだとは言えないはずです。新しい技術には不正利用の危険が常にあると考えられますが、今より一層技術が進歩し、安心して分かり易いデジタル社会が到来すれば、デジタル遺言書も登場するかもしれません。 徳丸修一