相続人が複数人いる場合、遺言や遺産分割協議によって財産を取得する人とそうでない人が出てくることがあります。それはそれで遺言者や相続人の皆様の自由に決められることですので一律に無効ということにはなりませんが、法律の定めにより、一定の相続人には「遺留分」という遺産に対する一定割合の権利が認められています。この遺留分の権利を有する相続人は、配偶者、子、父母などの直系尊属としており、兄弟姉妹に当たる相続人には認められておりません。
遺留分を侵害された者は、遺産を取得した者に対し、金銭による支払いを請求することができます。その請求額の計算方法は、おおよそ、以下のとおりです。相続人全体の遺留分を算定した後、個々の遺留分侵害額を算出する流れになっています。
1.(遺留分を算定するための財産の額)
被相続人(遺言者)が相続開始時点で有した財産の価額
+第三者に対し、相続開始前1年間のうちにした贈与の価額
+相続人に対し、相続開始前10年間のうちにした、
「婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本のためにした」贈与の価額
-相続債務の全額
2.(遺留分侵害額)
遺留分を算定するための財産の額×個別的遺留分の割合
-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額
-遺留分権利者が相続によって取得すべき財産の額
+遺留分権利者が承継する相続債務の額
個別的遺留分の割合は、相続人が例えば父と母のみである場合、(遺留分を算定するための財産の額)の3分の1に2分の1を掛けた、各6分の1となります。また、配偶者と子ABの場合ですと、(遺留分を算定するための財産の額)に2分の1を掛けた額に各法定相続分の割合を掛け、配偶者の個別的遺留分の割合は4分の1、子ABの割合は各8分の1となります。更にここから取得した相続財産を引いたり、承継する相続債務を足したりして具体的請求額を調整していきます。
遺留分は、遺言によっても排除することのできない、厚く保護された権利です。実際に遺留分侵害額請求を行うかどうかは、その遺留分権利者の任意です。裁判所へ訴えを提起する必要もなく、遺産を取得したものに対する意思表示によって成立します。もし自分が遺留分権利者であった場合、そのことが相続手続きにおいて重要なポイントになることもあるかもしれません。
徳丸修一