それぞれのご家庭には様々なご事情があります。ある日、何らかの理由でその人がどこかへ行ってしまって分からなくなってしまったり、あるいは大規模な災害に巻き込まれてしまってその人の安否が分からなくなることもあり得ます。もし、どこかへ行ってしまった人に例えば不動産を処分してもらったり契約してもらったりする必要が生じた時に、本人がいない以上手続きを進めることができず、困った事態になる場合もあります。
このような本人の所在、安否が不明な場合でも利害関係を有する人達が自己の権利を実現することを可能とする制度があります。
一つには不明者の財産管理人を代理人として家庭裁判所に選任してもらう制度があります(不在者財産管理人)。また、別の制度として、安否不明者に対する失踪宣告の制度というものがあります。不在者財産管理人は代理人が不在者のためにその者に代わって法律行為を行うものであるのに対し、失踪宣告は安否不明者を死亡したものとする制度になります。従いまして失踪宣告を受けた者に配偶者や子などの法定相続人がいる場合には、相続が発生することとなります。相続人らは失踪宣告によって死亡したものみなされた者の財産等を承継し、その所有者として売却等の法律行為を行うことが出来るようになります。
失踪宣告には宣告すべき理由が2種類あります。一つは不在者の生死が7年間不明だった場合に、7年の期間満了をもって死亡したものとみなす普通失踪というもの、もう一つは災害や戦争などの危難が去って1年経過した場合、その危難が去った時に死亡したものとみなす危難失踪というものです。申立人は家庭裁判所に対し、いずれかの理由に基づいて申立てを行うこととなります。申立の際は、例えば警察に捜索願いをしたときに発行された書面などを提出します。
申立人は誰でもなれるものではなく、安否不明の失踪者に対し法律上の利害関係を有するものに限るとされています。例えば相続人などは該当します。もっとも、失踪者に対して貸金債権などを有する債権者も利害関係があると言えるのですが、原則的に失踪宣告は認められていないようです。債権回収のために人を死亡扱いする運用は、権利利益のバランスを欠いているようにも考えられるからです。
申立てから失踪宣告が出るまでには半年以上かかると考えた方が良いです。その間に裁判所によって本当に失踪宣告をすべき理由があるかどうか調査されることになります。
失踪宣告が行われた場合、相続手続きを進めるため、もう一つやっておくべき手続きがあります。失踪宣告が出ますと、家庭裁判所からその旨の審判書が送られてきます。申立人は、10日以内にその審判書を市区町村役場に提出しなければなりません。その届出により、失踪者の戸籍には失踪宣告により死亡したとみなされた旨が記載されることとなり、その戸籍を利用して各相続手続きを行うことになります。もし、10日以内に審判書を届けることができないと、家庭裁判所への申立からやり直すことになりますので、この点注意が必要です。
失踪宣告に関する全ての手続きが完了しますと、失踪者の戸籍には死亡したとみなされた旨が記載され、必要な相続手続きを行うことが可能となります。制度としてやむを得ず利用せざるを得ない場合もあり、それは申立人を救うことになると思いますが、一方で自らの申し出によって死亡したものと扱う、心苦しい決断を伴う場面とも言えるでしょうから、我々司法書士としましても申立人の客観的状況だけでなく、心情にも配慮した対応が必要になると思っています。 徳丸修一